なまこつれづれ
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久々の博物館実習

担当者は教えることが苦手なため、学芸員資格を取るために必須とされる「博物館実習」ではあまり課目選択されないよう、「ナマコ類標本の解剖と同定」や「飼育資材整理」を持ちネタとしています。入院前には2~3年に一人が履修を希望することがありましたが、
退院後、初めて本日の午前中に「飼育資材整理」が実施されました。当館の博物館実習は県内出身で県外で学ぶ学生、もしくは県外出身で県内で学ぶ学生、という和歌山県に縁のある学生さんにしか参加できないルールがあり、今回の参加者は県内出身で県外に在学中の3人の男子学生でした。担当者の入院前に一度整理を実施したものの、それから約2年10ヶ月、乱雑に使われた資材置き場は物を踏まずに歩くのが困難な状況となっていました。散らかる最大の要因は日々のメンテナンス、改造、工作に用いられる塩ビ管とジョイントパーツの取り出し、雑多な端材、使用済みパーツの乱雑な返却です。今回、調餌場の使用許可を得て、散らかっていた資材、端材、廃棄物を学生さんたちに手伝ってもらいながら仕分けしつつ、様々なパーツや資材の特性、向き不向きなどについて解説し、身体を動かしながら、手を動かしながらの実学として貰いました。
片付け中
協力して作業に当たるエネルギッシュな若人の力の前では、山積みのパイプもホースもジョイントも2時間ほどで整理され、元のスペースに以前よりも使いやすく収まりました。
完成
予定よりも一時間ほど早く終わったので、もう少し当館らしさのある実習をと思い、3人には塩ビ曲げ加工と溶接を体験してもらいました。
溶接中
今回の3人は水族館の学芸員には進路としては興味が無いと言っていましたが、この課目を通じてストレスなく安全に作業できる物理的労働環境作り、コスト意識、労働導線感覚の概念を修得して頂けたと思います。そして最後には皆が見ただけで塩ビ管のVP-13、16、20、25、30、40、50まで言い当てられるようになりました。学生さんたちが綺麗にしてくれた資材置き場、出来るだけ長く散らかさずに使いたいものですね。


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超巨大クラゲエビ?


kurageebi?

フジナマコの再記載のための論文を世に出すために、おにぎりを食べながら骨片を測っていると、エビについての問い合わせで呼び出しがありました。玄関ホールのお客様がペットボトルを見せて下さり、「小さいエビです。なんという名前でしょうか」と見せてくれたのが写真のエビです。「小さい」と言われていたのでセジロムラサキエビくらいを想像していたら、5センチほどのエビの亡骸でした。「小さくないですよこんな大きいクラゲエビは初めてみました」と答えると、「なるほど、クラゲに着く習性のエビでしたか、エチゼンクラゲに着いていました」とのことでした。通常のクラゲエビはせいぜい3センチまでで、自然博物館の周りではエビクラゲなどによく見ることができます。いくつかの図鑑を紐解いてみましたが、クラゲエビ属は日本に一種のみとされていて、南方の種が北上してきたのか、すごく長く生きた個体だったのか、などと想像をかきたてられました。

その後、千葉県立中央博物館の奥野先生から、写真のエビはクラゲエビとは属する科が異なるトガリモエビ属のエビであることを教えて頂きました。同時に、トガリモエビ属とクラゲの共生については新知見かもしれないとのことで、やっぱり生き物は面白いことを再確認しました。

新型コロナウイルス感染症拡大防止期間終了につき

タカアシバサミ復活

先日、当館のレクチャールーム準備室の掃除が実施され、2020年以来、撤去されていた触察コーナーの海松(推定200歳もの)と可動式のタカアシバサミ(腕長130センチ超え)
がホコリをかぶりバラバラになった状態で発見されました。目に付いたすべての破片を拾い集め、数時間かけて復元し、元の触察コーナーに再設置しましたが、カニの掌節の末端のパーツは見つかりませんでした。一応スムーズに動きはするものの、閉じた時に、「ぱちっ」という音がないのは寂しいですね。
指節復元

海松は複雑骨折の修復が難しく、元の美しい枝ぶりは失われてしまいました。
海松破損

お見せできるような写真はありませんが、一応、触察コーナーに設置してありますので興味のある方は覗いてみて、
大変な目にあったね、と一声かけてあげて下されば幸いです。

炙り始め

旧年は大変お世話になりました。新年も何卒よろしくお願い申し上げます。
担当者が仕事始めにおこなわなければならない作業は、顕微鏡周りの片付け
1研究スペース
ではなく、骨片の抽出に用いるパスツールピペットの準備です。
ちなみに顕微鏡は、20年前に大学のゴミ捨て場で拾ったパーツを、根性で組み合わせ、グリスアップして完動品にした
現在40年物のNikon SMZですが、顕微鏡下での細かい作業が不可欠なナマコ業界においては、
SMZの作業領域(対物レンズと試料の距離)の広さには本当に語りつくせないほど感謝しております。
2材料
工業生産品の先端内径1 mmのパスツールピペットでは、ナマコの骨片の抽出には誤差が大きすぎるので、
バーナーで炙って先端を伸ばすことで内径を狭め、経験的に最適と考える内径0.1~0.2 mmの状態に調整していきます。
3バーナー
パスツールピペットのように薄いガラスを溶かすのには家庭用ガスコンロなどでも十分なのですが、
重力の影響を考えて、上下に引っ張りながら加熱するにはバーナーが必要です。
この年季の入ったバーナーは15年ほど前に、函館の北水前の「黄色い手袋」のお店(釣り具、防寒着、食品、駄菓子、日用品、工具、資材、山菜保存瓶まで何でも揃う北水生の御用達の店舗)で買ったもので、長きに渡ってお世話になっています。
炙られるパスツールピペットも北水に在学していたころに研究費で買わせて頂いたものです。
4パスツールをより細く
バーナーによる作業が終わっただけでは実用できないので、不要な一端を折り取って、端処理を施す必要があります。
5研磨中
ダイヤモンドグラインダーで折口を削り、口径を整えていきますが、電源は入れず、指の力で砥石を転がしながら研磨を進めます。
電力で削ると、往々にして振動に耐え切れずにガラスが意図しないところで割れてしまいます。
6貫通テスト埃吹き
端処理の出来栄えは、砥石の削り滓を意図する通りに吹き飛ばせるかどうかで判断します。
7マーキング
調整の完成したピペットにはビニールテープで印をつけます。
担当者は、溶解液や廃液の吸込み吸出しに使うものには黄色のテープを貼り、
ホールガラスからの骨片の抽出とスライドガラス、アルミニウムスタブへの滴下に使うものには黄色と赤色のテープを貼ります。
8完成十数本
30分ほどの作業で、十数本の完成品をストックすることができました。
あれだけのピペットがあれば、あと十年は戦える・・・!
ということはなく、毎月2~3本ずつ減っていきますので、年に何回もおこなう大事なルーチンワークです。

和歌山県で初記録のウミシダ

Whole view
Distal Cirrus view
海産無脊椎動物担当の学芸員は毎年12月に標本の受け入れ作業をおこなっています。
海産無脊椎動物には名前を調べることが極めて難しい種が少なくないため、とにかく時間がかかるのです。
添付の写真のウミシダ(特徴は下記の通り):
・10腕
・巻脚の脱落痕は100程度
・中背板は小さく半球状(陥入なし)
・巻脚の節は18程度で各節の縦横比=4 : 1 ~ 6 : 1 程度(エビの歩脚みたいに側扁して細長い)
これは当館では初見のもので、非常に頭を悩ませられましたが、コシオリエビの件と同様に専門の研究者に質問させて貰うと直ぐに返事がありました。
ヒゲバネヒメウミシダThysanometra tenelloides (AH Clark, 1907)という種だそうです。
また一種、自然博物館で同定できるウミシダが増えました。
こういう事のある度に「餅は餅屋」を実感しますね。情報を寄せて下さった皆様、本当に有難うございました!
また火曜日から受け入れ作業の続き頑張ります。

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